バークシャーと日本株・2026年7月
バークシャーはなぜ、
商社株を買い続けるのか
7月1日、バークシャーが三井物産と丸紅の保有比率を10%超に引き上げたことが判明しました。2020年から続く商社株投資の全推移を振り返り、5大商社を徹底解剖した上で、次にバークシャーが狙いそうな分野を探ります。
最新動向
三井物産と丸紅、ついに10%の壁を越えた
7月1日の取引終了後、関東財務局に提出された変更報告書で、バークシャー・ハサウェイ傘下のナショナル・インデムニティー・カンパニーによる買い増しが明らかになりました。
バークシャーによる5大商社の保有比率(判明している直近の値)
赤は7月1日に判明した最新の買い増し分。三菱商事・伊藤忠は2026年2月の株主への手紙時点、住友商事は5月時点の値。
バークシャーは当初、5社の株式保有比率を10%未満で維持することで合意していました。その「10%の壁」を、各社との協議を経て次々と越えているのが現在の局面です。単なる追加投資ではなく、5社との関係性そのものが一段階深まっていることを意味します。
投資の推移
2020年から6年間、買い続けてきた記録
- 2020年8月バークシャーが5大商社株を各5%超保有していることが判明。取得は2019年から進められていた。当時は「なぜ日本の商社なのか」と市場を驚かせた。
- 2023年〜段階的に買い増しを継続。バフェット氏は来日して各社経営陣とも面会し、「保有比率は最大9.9%まで」との方針を示していた。
- 2025年2月バフェット氏が株主への年次書簡で、5社の持ち株を「非常に長い期間」をかけて増やす考えを表明。10%の上限について各社と協議し、緩和の合意を得たことも明かした。
- 2025年3月株主総会でバフェット氏が商社株について「今後50年間は売らないだろう」と発言。
- 2026年2月アベルCEOによる初の株主への手紙で、保有比率は三菱商事10.8%・三井物産10.4%・伊藤忠10.1%・丸紅9.8%・住友商事9.7%、保有時価総額は354億ドル(約5.5兆円)で前年末比+5割と開示。
- 2026年3月東京海上HDと資本業務提携(2.49%・約18億ドル取得)。商社以外で初の本格的な日本株投資に踏み出す。
- 2026年5〜7月住友商事(10.30%)、三井物産(10.83%)、丸紅(10.32%)と、残っていた3社の保有比率を相次いで10%超へ引き上げ。
三菱商事など五大商社と同様に「恒久的」な投資先として捉えている。 — グレッグ・アベルCEO、2026年5月の株主総会での東京海上HDに関する発言
重要なのは、バフェット氏がCEOを退任し、アベル新体制に移行した後も、この方針が一切変わっていないどころか、むしろ加速していることです。バークシャーは円建て社債を繰り返し発行して円資金を調達しており、「日本で買い続けるための資金」を計画的に用意している構図が続いています。
徹底解剖①
5大商社は「何で稼いでいる」のか
5社は「総合商社」と一括りにされますが、利益の源泉はまったく異なります。分岐点は「資源依存度」です。
| 銘柄 | 純利益に占める資源比率 | 事業の柱 | タイプ |
|---|---|---|---|
| 三菱商事(8058) | 50%超 | LNG・原料炭・金属資源、総合力 | 資源型 |
| 三井物産(8031) | 50%超 | 鉄鉱石・LNGで高いプレゼンス | 資源型 |
| 伊藤忠商事(8001) | 14.8% | 繊維・食料・ファミリーマート等の生活消費 | 非資源型 |
| 住友商事(8053) | 13.7%(5社で最低) | 都市総合開発・エネルギートランスフォーメーション | 非資源型 |
| 丸紅(8002) | 29.0% | 食料・アグリ・電力 | バランス型 |
この構造の違いが、直近の業績に明確に表れています。資源価格が落ち着いた2026年3月期の中間決算では、資源比率の高い三菱商事が前年同期比-42.4%の大幅減益(豪州原料炭事業売却益の反動やローソン持分法化などの一過性要因を含む)となった一方、伊藤忠商事は+14.1%、住友商事は+18.6%、丸紅は+28.3%と、非資源の収益基盤が厚い3社がそろって増益を確保しました。「資源の時代」から「多角化の時代」への転換点で、明暗が分かれているのが現在地です。
徹底解剖②
投資指標と株主還元で比較する
| 項目 | 三菱商事 | 三井物産 | 伊藤忠商事 | 住友商事 | 丸紅 |
|---|---|---|---|---|---|
| 配当利回り(目安) | 約3.7% | 約3.7% | 約2.6% | 約3%台 | 約3%台 |
| ROE | 10.3% | 11.9% | 15.7% | - | - |
| 自己資本比率 | 43.6% | 44.9%(5社トップ級) | 38.0% | 33.9% | - |
| 株主還元の特徴 | 自社株買い上限1兆円・累進配当 | 配当利回り特化型 | 総還元性向40%以上・下限配当200円 | 総還元性向40%以上 | 総還元性向40%程度 |
| 市場の評価 | 安定巨艦だがEPS減速 | 割安と成長のバランス型 | PER/PBRとも高水準(高評価) | 保守・安定型 | 高進捗・上振れ余地 |
※数値は2026年3月期の決算資料・各種報道に基づく概数。時点が異なる項目を含むため、取引前に最新の値をご確認ください。
興味深いのは、市場の評価軸の違いです。非資源で安定成長する伊藤忠はPBR2倍前後という商社としては突出した評価を受けている一方、資源型の三菱商事・三井物産は相対的に割安に据え置かれています。5社すべてが累進配当(またはそれに準ずる方針)を掲げ、総還元性向40〜50%という高い株主還元意識を持っている点は共通です。バークシャーが5社を「均等に」買い続けている事実は、どれか1社の優劣ではなく、「業態そのもの」への投資であることを示しています。
なぜ商社なのか
バフェットが見た「バークシャーとの相似形」
バフェット氏は商社を「バークシャーに似た多角経営体」と評しています。資源・食料・インフラ・金融と、参入障壁の高い事業を複数抱え、その複雑さゆえに市場から過小評価されやすい。この構造は、保険・鉄道・エネルギー・製造業を傘下に持つバークシャー自身と重なります。加えて、①PBRが低く配当利回りが高い(買った瞬間から配当で回収が始まる)、②円建て社債での調達により為替リスクを抑えながら投資できる、③経営陣が株主還元に積極的で、自社株買いによりバークシャーが何もしなくても持分比率が上がっていく、という構造的なメリットもあります。「50年間売らない」という言葉は、この仕組み全体への信頼の表明だと解釈できます。
次の一手
バークシャーが次に狙いそうな分野
商社5社が「10%超」の水準に達しつつある今、市場の関心は「次にどこを買うのか」に移っています。手がかりは3つあります。
手がかり①:バフェット銘柄の「型」
野村證券のスクリーニングによると、バークシャーの投資先には共通の型があります。時価総額が大きく、PBRが市場中央値より低く、ROEは市場並み、そしてボラティリティが高すぎないこと。この条件で日本株を絞り込むと、生損保・住宅・不動産・自動車・銀行・証券・リース・運輸・通信の各業種から複数社が該当すると分析されています。
手がかり②:東京海上との「排他条項」
2026年3月の東京海上HDとの提携には、最初の5年間、バークシャーが競合損保と同様の提携を結べない排他条項が付されていると報じられています。つまり、損保業界での「次」は当面封じられており、次の一手は保険以外のセクターに向かう可能性が高いことになります。バークシャーにとって保険は「フロート(保険料を預かってから支払うまでに運用できる資金)」を生む中核事業であり、その日本での受け皿は東京海上で確保済み、と整理できます。
手がかり③:「多角経営体」というレンズ
商社投資の論理(参入障壁の高い事業の複合体が、複雑さゆえに割安放置されている)をそのまま適用すると、市場では次のような候補が挙げられています。
- 自動車マネー現代の分析では、ホンダ(PBR0.40倍・時価総額約5.7兆円、2026年4月時点)が最有力候補として挙げられています。バークシャーは全米10州で103のディーラーを運営しており、事業上の接点もあります。トヨタも金融・住宅・スマートシティを抱える「多角経営体」として、商社と同じ論理が適用できると指摘されています。
- 銀行・金融低PBR・高配当・大時価総額という「型」に最も合致しやすい業種の一つ。バークシャーは米国でバンク・オブ・アメリカ等への大型投資の実績があります。
- 運輸・通信バークシャーは米国で鉄道(BNSF)を完全子会社化しており、インフラ型の安定収益事業への親和性が高い。通信も野村のスクリーニングで該当業種に挙がっています。
- 商社の追加買い増し忘れてはいけないのは、「次」が新しい銘柄とは限らないことです。10%の壁を越えた今、5社をさらに買い進める余地が生まれており、アベルCEOは「恒久的な投資先」と明言しています。
投資家の視点
この動きを、どう受け止めるか
ポジティブに見る根拠
- 世界最大級の長期投資家が、日本株を「恒久的」保有対象と公言し、実際に買い続けている
- 商社5社は累進配当・高水準の自社株買いを継続しており、株主還元の面での安心感がある
- バークシャーの保有比率上昇そのものが、浮動株の減少を通じて需給の下支えになる
注意しておきたい点
- 資源型の三菱商事・三井物産は、資源価格の下落局面で減益となる構造は変わっていない
- 「バフェットが買っているから」だけを理由にした投資は、自分の判断軸を持たないリスクがある
- 「次の候補」はあくまで市場の推測であり、バークシャーが実際に買う保証はどこにもない
バークシャーの商社投資から個人投資家が学べる最大の教訓は、銘柄そのものよりも「選び方の型」です。参入障壁の高い事業を複数持ち、株主還元に積極的で、それでも割安に放置されている企業。この型を自分のスクリーニングに取り入れることが、「バフェットの真似」よりも本質的な学びになります。
まとめ
「10%の壁」の先にあるもの
7月1日に判明した三井物産・丸紅の買い増しにより、バークシャーの5大商社投資は「10%未満での保有」という当初の約束の先へ進みました。2020年の判明から6年、CEOの交代を挟んでも投資は加速しており、東京海上との提携で日本株投資の裾野は商社以外にも広がり始めています。次の一手が自動車なのか、金融なのか、あるいは商社のさらなる買い増しなのかは分かりませんが、「参入障壁の高い多角経営体を、割安なうちに、長期で持つ」という判断の型は一貫しています。個人投資家が持ち帰るべきは、銘柄名ではなくこの型そのものです。
本記事は一般的な情報提供を目的とした分析・整理であり、将来の株価動向やバークシャーの投資行動を保証するものではなく、特定の投資判断を推奨するものでもありません。記載のデータは執筆時点(2026年7月2日)の報道・公開情報に基づくものであり、その後変わる可能性があります。「次の候補」に関する記述は各種メディアの推測の整理であり、筆者独自の予測を示すものではありません。投資にあたっては最新の情報を確認の上、必要に応じて金融の専門家にもご相談ください。
